人さけて人の恋しき花曇  はるみ

昨日は五月の天気だというのに今日は花曇、朝から風に窓のさくらが散りつづけている。一日、さくらを見ながら昼のワインでも飲みたいな、と思うけれど、いろいろやらねばならぬことが山積でそうはしていられず、これから、ひとつ一つ、片付けねばならない日…

菜の花や一人で行けば遠き道  はるみ

小鳥の声で目を覚まし、カーテンを開けると、どの窓もさくらが満開。息をのむとはこの感覚かもしれない。とその朝思った。というのは、娘の家族と娘婿の両親としばらく軽井沢に行っていて、まだ冬の暮らしをしていたからだった。子供が裏庭の雪でかまくらを…

雪のせて野仏の肩なほまろき  はるみ

日本各地から雪の便りが届く、ほんの半月前は暖冬を嘆いていたのに、修正された長期予報は厳冬に変わったらしい。すると、テレビではしきりに雪の被害が報じられている。年寄りだけの家庭の雪下ろしが出来なくて、役所が手配をしているらしい。都会の子供が…

落葉掃く空に鳥声しきりなり  はるみ

ひと月ほど前に転居した。もともと27年ほど住んでいた町に戻った。今度の住まいは駅から7、8分のところろ、前の5、6分より少し遠いけれど、毎朝鳥の声で目を覚ます。「まるで軽井沢の朝のよう」と思っていた。ところが、昨夜からの大雨の中、今朝も小…

草も樹も息ととのふる白露かな  はるみ

久しぶりに神奈川近代文学館に出かけました。7月の末から始まっていた「まるごと佐野洋子展」が9月27日で終わってしまう、と気にかけていたら、横浜の孫娘が泊まったので、送りがてら一緒に行くことにしました。彼女とは、時々絵本の展覧会や人形博物館…

晩鐘の余韻に風の薫りけり

一枚の写真がある。川のほとりの草むらにどこかの大きな犬と私。場所はモンブランの麓の村だったと思う。折しも夕方の風にのって、教会の鐘がなっていた。少しはなれていたから、ぼーっとして聞いていたら、その犬も身じろぎもしないで耳を傾けている。6月…

猫の子と雨やりすごす軒の下  はるみ

フエイスブックの知人の中に動物の好きな人が数人いる。私は直接知らないけれど、その人たちが紹介するエピソードに時々元気をもらう。 今日はライオンの子供をむかし飼っていた人が大きくなったライオンに再会した動画に、思わず引き込まれた。なんと人間よ…

菜の花や一人で行けば遠き道  はるみ

パリやニューヨークへ行く飛行機は途中で給油しないから、13時間ぐらい乗っていなければいけない。それが苦痛とよく聞く。ところが、この間あった知人はなんと13時間友達とおしゃべりしてたら、ついてしまったという。そんなに話すことがあるのだろうか…

端居して松の枝ぶり見てゐたる  はるみ

少し疲れたなと思うと軽井沢の家に出かける。新幹線に乗ってぼんやり窓の外を見ているだけで身体が軽くなるような気がする。家についたら散歩をしよう、もし、コーヒーの豆がなかったら、近くの「ハルニレテラス」に散歩がてら買いにいこう、などと思ってい…

父の日の雀来てゐる水たまり  はるみ

子供時代から成長期にかけて、思い出すと恥ずかしい位、典型的なファザコンだったように思う。明治生まれなのに朝食はトマトジュースとオートミール、半熟卵、ハム。寝るときはドイツ製のベッドという、なんというか鼻持ちならない西洋かぶれの暮らしぶりだ…

梅が香やなにをさがしに二階まで  はるみ

これは隣の町の一軒家に住んでいた頃の俳句。ちょっと寒いから上着を着ていこう、と思って2階に上がってみたものの、ちょうど窓の外の桜の枝に鳩がきていて見とれているうちに、「?」ということになってしまった。当時はそれが珍しかった。 それから、何年…

二ン月の修羅ぬけてきし十二歳  はるみ

数日前、電車の中で本を読んでいたら私の肩に頭をのせて熟睡している少年がいた。よほど眠いに違いないとそのままにしておいた。新宿を出てすぐに気がついたけれど、いくつも駅を通過するのに寝息は途切れない。あと2駅で下りなくちゃ、お隣は何処まで行く…

松過ぎの画廊二つを回りけり  はるみ

お正月すぎに日経新聞を読んでいてびっくりしたことがある。歌人の馬場あき子さんが文芸欄にかかれた随想に、今年一家で100個の餅を焼くという歌を見たとあった。お雑煮に1つか2つしかお餅を入れないわが家では想像も出来ない。 その文章によると昔の日…

傾けてガルボになれぬ冬帽子 岩永はるみ

「ガルボ」ってなんですか? と訊かれたことがある。そうか、「肉体の悪魔」も「アンナ カレーニナ」も見てないんだ、と考えたら、私自身もリアルタイムで見た訳ではなかった。伝説の古い映画を見たいと思って見た事に気がついた。それなら、ガルボは知らな…

外つ国の少女溶け込む踊の輪 岩永はるみ

10月に松本城にいったところ、外国人の多さに驚いた。英語、フランス語、中国語、イタリア語、何語かわからない言葉まで飛び交っている。庭で開催している菊花展や盆栽を熱心に覗き込んでいた。 今朝、高野山の紹介をテレビで見たら、そこにも世界各国の方…

笹舟を流す門川今朝の秋 はるみ

今年は永久に秋が来ないのでは、と思うほど9月が暑かった。そして、昨日は10月の3日に、東京は30度を記録した。 いつもなら、8月の半ばにはうるさいぼどいる軽井沢の赤蜻蛉や鬼やんまも9月になってから、姿をみた。その話を娘にすると、8月でも、浅…

飛魚の鳥になる夢夕茜 はるみ

久しぶりに叔母から電話があった。従兄弟が6月3日に亡くなって、昔のことがいろいろ思い出されたと言って、私の知らない親戚の消息が知らされた。 だんだん、年上の親族が向こうの世界にいってしまって、その度にアルバムの整理を急がなくては、不用なもの…

梅雨寒や猫のもぐりし鉋屑 はるみ

今年の気候は乱れに乱れ、コートを着たり半袖になったり忙しい。一体あしたは何を着たらいいのかしら? と毎晩天気予報に注意している。そんな週末、まだ夏にはほど遠い軽井沢に行ったら、なんと蟬の声が‥‥。 庭に何か異変が、と思うほどの蟬の声にやっと気…

坂の名に伊達や南部や走り梅雨 はるみ

今年は例年より早く5月の終わりに梅雨入り宣言があった。この季節になると、なぜか決まって思い出す事がある。昔々、結婚して半年ほどたったある日、夫の父から一通の手紙が届いた。季節の挨拶のあと、「ところで家にひよこが生まれました。裏庭を元気に歩…

水切石の行方光りぬ暮の春 はるみ

この渓谷のゆったりとした流れ、透き通る水の美しさはなんと言ったらいいのだろう。仲間と一泊のテニスキャンプの帰途、嵐山渓谷を訪れた私たちは水の豊さと両岸にそよぐ緑の木々に圧倒された。しばらくは、ぼんやりと若々しい緑に見惚れ、水の底を見入って…

笑ひ声にふくらんでゐる春障子 はるみ

1年の内、およそ3ヶ月を軽井沢で暮らすようになって、何年になるだろうか。毎年、町役場に「1年で何日こちらに滞在しています」という報告書を出しているが、去年は丁度90日だった。9ヶ月都民、3ヶ月長野県民なのかしら。となんとなく楽しくなった。 …

指先に覚えなき傷冴え返る 岩永はるみ

寒波はいつも、立春の声を聞いてからの方がきつい。出かけそびれて家で古い切り抜きを整理していたら、面白い記事がみつかった。作家の花田清輝のパリの一文が、ノートに貼ってあった。 パリの墓地に二つのお墓が並んでいて、先にできた墓には、「ジャック …

のどけしや積木の家の赤い屋根 岩永はるみ

木の玩具には、子供を引きつける魔法がかかっているらしい。我家に古い積木の箱があるが、子供たちはうちの子もよその子もこの箱を見つけると、たちまち夢中になる。あっという間に牧場が出来て、飾り物の牛たちを入れていたり、高い高い塔を作りあげたりす…

囀りの光あつめて散らしけり はるみ

数年前北京を訪れた。前に『春燈』という俳句誌に書いた事があるけれど、その時の事。 私はどこの地に旅をしても、朝食のあとホテルの近くを散歩をすることにしている。その時も近くの公園へ歩いていくと、数人の人が鳥籠を持って歩いている。もしや、この先…

一枚ずつ賀状くりをる夜更けかな はるみ

このお正月の2日、小学校の同級生がひと足さきに、あちらの世に旅立った。病気が解った時は手遅れだったと聞いて、みんなの中で一番元気そうだったのに、と思ってもせんないことを思い、ふと、年賀状の箱を開けてた。やはり、その人の年賀状はなかった。1…

船室の自動ピアノや秋澄めり はるみ

10月7日、結婚50周年を迎えることが出来ました。長い歳月、時に片目をつぶり、ある時は両目をつぶって過ごし、ついに迎えた記念日です。朝の聖日礼拝から帰って、静かに50年を振り返りました。夫との関係は学生時代から進歩がみられないけれど、健や…

辰雄なきあとの追分萩の風 はるみ

季節の終わりはいつも心が騒ぐけれど、今年は殊の外、心細い気がしてならない。軽井沢の庭は、花魁草、たいまつ草などがすっかり影をひそめ、鳥兜や水引草が取って代わり、薊の紫色、継子の尻拭いのあざやかなピンクが秋たけなわを告げている。花の色の鮮や…

追い越してみたきうなじよ踊笠 岩永はるみ

富山県の風の盆にいったのは、十五年ほど前だろうか。一年前から宿の予約をした記憶がある。酔芙蓉の花がうす桃色になった頃、胡弓の調べで、揃いの浴衣が街を踊りながら流していく。踊り手の顔は笠で見えないが、顎のあたりやうなじが若々しく匂うよう。 聞…

時計なき暮しを揺らすハンモック はるみ

少し揺れている高い枝の先を、栗鼠がまるで小径を走るように渡っていく。久しぶりにハンモックで本を読んでいて、ふと梢の先の空を見ていたら、小鳥に混じって栗鼠の姿をみつけた。高原では毎年、暦と同じ感覚で秋が来る。 今日、立秋に読んでいる本は、『し…

祖母の吹く祖父のハモニカ秋夕べ はるみ

軽井沢の大賀ホールで『夏の雲は忘れない』ーヒロシマ、ナガサキ、1945年ー。に出かけた。あの頃の人々の作文を、渡辺美佐子を初めとする7人の女優さんと地元の6人の中学生が朗読する。 当時、アメリカの戦闘機の爆音を聞かせないために、子供にハーモ…