ままごとの母わがままや赤のまま はるみ

先日、娘夫婦の友人と田舎の週末を一緒に過ごす機会があった。そのお嬢さんが2歳で可愛い盛り。木の積み木をしていたので、隣で見ていたら、「これ、一緒にしていいのよ」と誘ってくれる。まんまるの目や長い睫毛が天使のようで、12歳の孫娘もみんなもすっか…

二人では行けぬ彼岸や秋の虹 はるみ

最近玄関に小さな鏡をかけた。訳は、ある日のこと、夫が「行ってきます」私が「行ってらっしゃい」とやり取りの後、夫をふりかえると、何と夫の鼻にテープが付いている。鼻腔拡張テープというもの。安眠のためのテープらしい。「え、そのまま行くの?」「そ…

友の旅こたびは長し鰯雲 はるみ

昔はあの人を近頃見かけないな、と思うとパリやら、ローマやらに旅行していた。そして、帰国後の旅の話はおかしい事も、失敗した事も、聞くだけで旅の楽しみのお裾わけを頂いたようで、幸せな気持ちになれた。 そう言う自分たちの旅も夕焼の美しさにひかれて…

八月の相語りゐる遺影かな はるみ

今年の台風は気ままにやってきて、家や学校、農家の大切な作物を台無しにしていく。今夜も13号というのが本州に上陸するらしい。庭の花々も明日か明後日ひらく蕾がたくさんあるけれど、きっと明日は倒れた花や小枝の後片付けに追われることと思う。 これが農…

新涼の糊きかせたる枕かな はるみ

まだ7月の終わりだというのに、庭のななかまどの梢が色づき始めた。台風の前触れの雨が樹々の様々な緑に白い雨を降らせている。辛夷の繁りが時々揺れて、小鳥の青い尾がみえる。 毎年思う事だけれど、夏の初め、伸び続けていた草がこの頃から急に静かに柔ら…

海に向くホテルの小部屋明易し はるみ

四方を海に囲まれたオランダの旅が忘れられない。日本も島国だけれど、小さな島が海より低い国というのが中々納得出来なかった。アムステルダムを離れて田舎の方に行った時のこと、行きたい島が地図の上ではすぐ目の前にあるのに、周りの運河に橋が見つけら…

端居して松の枝ぶり見てゐたる はるみ

夫の好きなものは今のところ、C家の飼い犬のZ君と庭のハンモックらしい。昨日、気持よく晴れた青空にハンモックの上で一休みしようとしたら、ハンモックが真ん中で裂け、もんどりうって草の上に落ちた。夫がその写真を娘に送ったら、父が怪我でもしたかと、…

向日葵や国境守る兵若き はるみ

ドイツのノイシェバインスタイン城に2度ほど夫の車の運転で行ったことがある。その裏の鬱蒼とした森のなかに、小さくて簡素な国境があった。私たちの通った時には暗いしめった森に、太い道を閉鎖する木のゲートが開いていて、国境を守る兵士はいなかっったが…

山裾の駅舎眠たし桐の花 はるみ

軽井沢の野鳥の森の中に、昔から天然の湧き水で出来た池がある。冬はスケート場になって、土地の子どもたちが遊んでいたらしい。それが、数年前に人工の手を加えて素敵なスケート場になった。10メートルはある池の土をすくい、新しい土を入れて電線を通した…

賑やかに別れて淋し蛍狩 はるみ

その夜は親しい誰かれを誘って等々力渓谷の蛍狩に出かけた。何処かで飼育された蛍と聞いていたが、昼間の緑滴る渓谷とは違って、無数の光がもつれ飛ぶ様子は、やはり目を奪われるものがあった。みなしばらくは、無言でその光景を忘れまいと、一心に見ていた…

逢はざれば青年のまま遠郭公  はるみ

ある年齢になると、同期会が毎年あるようになる。理由はリタイアして時間ができたとか、子育てが一段落したとか様々。とにかく若き日の知人、友人に再会したくなる。会えば過ぎ去った時間が嘘のように、話がはずみ別れがたい。幼名で呼び合い、気取りのない…

手の届くところに書棚灯涼し  はるみ

木下夕爾の詩集と句集を大切に硝子戸のついた本棚にしまっていた。けれど、ふと考えてみると、あちらの世界にお引越しをする日もそう遠くはないし、すぐ手の届く書棚に移した。すると、手にする機会が増え、夕爾の手作りのインクはどんな色かしら、などと考…

手のd届くところに書棚灯涼し

 もらはれてすぐ寝る仔犬花ミモザ  はるみ

娘の家に雑種の仔犬がきてから、あっという間に10ヶ月ほどがたち、ZENとは名付けられた彼はみるみる我が家族のスターになった。 犬の場合、大きくなったからと言って家事を手伝ったり、庭の落ち葉を掃いたりはしない。もっぱら、野沢温泉のすきー場を子供…

 行く春を水面の空に惜しみけり  はるみ

今年も千鳥ヶ淵の桜のつぼみがうっすらと色づき始めた。毎年、ここの桜に出会うのを楽しみにしている。初めに歩いたのは、むかし昔、吟行会で5句ほど句を作るためだったと思う。 池のボートに気をとられて見ていたら、ボートの向こうに都会の真ん中だという…

相生の一樹切らるる寒さかな  はるみ

今年のお正月は思いがけず、娘一家と、夫のもっとも若い友人「幼稚園に通園中」のご家族と楽しい新春のひとときを過ごした。どうして、その少年が髭を生やしたおじさんを、友だちと認めてくれたのか解らないが、なにやらしっかりと友人関係が成立したらしい…

身幅ほど雪掻いてあり女坂  はるみ

今週は何十年ぶりかの大雪が降り、東京の交通網と道路が混乱した。このことはかなり前から予告されており、なぜ、備えをしなかったのか、不思議でならない。 ちなみに当日は夕方から大雪になると言う予告があった。その日、仕事の予定が入っていた私は、「こ…

帰宅して口きかぬ子や冬苺  はるみ

私の住んでいる町はいわゆる学園都市で、私が帰宅する時、しばしば下校の中学生とすれちがう。声が大きいので、彼等の会話が近づいてくる時から、すれちがって、遠ざかる時までよく聞える。 男子校なので、部活の話やスポーツの話題が多いいけれど、定期試験…

山茶花やすれちがふ子に日の匂ひ  はるみ

我家の近くの小学校では、落葉の季節になると、住宅街の落葉を掃く、という課外授業がある。桜並木の紅葉した落葉を子供たちがグループに分かれて掃いているのは、童話の本の1ページを見ているよう。 一心不乱に作業している子もいれば、ただただ落葉をかき…

声がはりせし少年や初嵐  はるみ

私にとって4番目の孫がこの夏オランダの友人宅に出かけた。学校友達のお宅にうかがったと聞いていて、どんな経験をしたのか、他所のご家庭で礼儀正しくふるまえたのかしら、などと余計な心配をしていたけれど、まず、メールの動画で、帰国した彼に飛びつい…

笑ふたび太る子どもや草の花  はるみ

1昨日長野から戻った東京は蒸し暑かったと言うのに、今日は10月なかばの気温。こよみの上の夏はとっくに終わっているけれど、この違和感は何? つい、この間まで、長野では芙蓉が日ごとに真っ白な花や底紅の花を咲かせ、野菊が咲き乱れるていたのに、折か…

門川の風を呼び込む麻のれん  はるみ

以前、川越にいった時には記憶になかったけれど、この度川越を訪ねてみると、昔、小江戸と呼ばれた頃は、水運で栄えたところだけあって、まわりに門川がある店があってなかなか良い雰囲気。 そして、その門川をまたぐようにして木のベンチがおいてある。涼し…

樹上より少年の声風香る  はるみ

モンマルトルのホテルの窓から12本のマロニエの樹がみえる。鳩が朝からしきりと花をつつき、花びらが石畳にハラハラと落ちる、窓の下の公園には、パリ市の飲める水道がでているので、散歩の人が時々立ち止まる。石畳の坂道だというのに、ジョギングをして…

讃美歌に和す鳥声や復活祭  はるみ

4月10日から21日までパリに出かけた。前回はオペラ座近くに泊まり、さくらと木蓮の花が咲き乱れるパリに13日滞在した。3月はこんなに暖かい日もあるかしら? と思うほどうらうらとしていた。 4月はどうかしら、と夕方のパリにつくと、マロニエの花ざ…

庭で切る子供の髪や木の芽風  はるみ

今日は会社の入社式のニュースがたくさん報道された。その中に両親が出席している映像があって、なんとなく違和感を覚えた。昔、日本の歴史に登場した十代の若者たちを思うと、現代の親は子供が成長するのが、いやなのだろうか。子供の方も当然のように嬉し…

雪止みで背に睦む鳥の声  はるみ

建国日の前日、山の家に7人の来客があった。週末の金曜日世田谷でテニスをしていたら雪が降ってきたので、早めにやめて、長野に向かった。日本海側の鳥取県は90センチの雪と報道されているが、長野は60センチほど。都会から来る若者たちには、ほどよい…

渓流の見ゆるバス停鳥の恋  はるみ

明日は立春というのに、毎日雪の被害ばかりがニュースになっている。いくら粋がっても、なかなかコートが手放せない。それどころか、みんな、マフラーとマスクでガードしている。マスク美人が増えて、電車の中の景色はそれなりにいいけれど。早く、コート脱…

公園に猫の新顔日脚伸ぶ  はるみ

猫は人に懐かない、と言われるけれど、猫同士はずいぶん仲良しで、いつも通る公園の隅は、風が来ないからか、夕暮れになると猫が集まっている。散歩や買い物の帰りに見ているので、顔ぶれは大抵覚えているけれど、近頃新顔があらわれた。 日本種ではなくて、…

枯れきって林明るき日なりけり  はるみ

大寒波がやってきていると、連日テレビの天気予報が言う通り、北海道、青森、新潟の降雪は記録的な深さのよう。けれどなぜか東京は晴れの日が続いている。そして、東京の私の部屋の前はヒマラヤ杉や金木犀、柊などの他は見事に木々は葉を落し、枯れつくして…

相生の一樹切らるる寒さかな  はるみ

ご夫妻で俳句を趣味にされていた方がご主人を亡くされた。生前できるだけの事はして差し上げたので、悔いはないときいていた。ひと月ほどで小旅行にも出かけ、溌剌と日々を過ごされていた。心を尽くして見送れば、案外さらっと普通の日常を取り戻せるのかと…