友の旅こたびは長し鰯雲 はるみ

昔はあの人を近頃見かけないな、と思うとパリやら、ローマやらに旅行していた。そして、帰国後の旅の話はおかしい事も、失敗した事も、聞くだけで旅の楽しみのお裾わけを頂いたようで、幸せな気持ちになれた。
そう言う自分たちの旅も夕焼の美しさにひかれて、遠回りをしてしまったり、夕方になったのにホテルが見つからなかったり、予定があるような、ないような旅の日々をすごしていたように思う。
さらに、若い頃は時間がゆっくりと流れて、夏休みも途方もなく長く、山の家で花や虫を見ていたと思えば、同じ夏に海月に刺されて、脚が腫れ上がったので、なんとか全集を読み、それでも夏休みは終わらず、いとこの家に泊まり、といった夏もあった。
今、春も夏もスケジュールをこなしているうちに、矢のような速さで後ろに流れさる。
そして、大切な友人さえも、近頃はついこの間、一緒に食事をしたのに、何故、彼の世へ、ということが時々ある。もちろん、いづれ遅かれ早かれ、みんな必ず彼の世に行くのだけれど、ちょっとパリに行ってたのよ。と言うわけにはいかないだろうか。