2012-01-01から1年間の記事一覧

船室の自動ピアノや秋澄めり はるみ

10月7日、結婚50周年を迎えることが出来ました。長い歳月、時に片目をつぶり、ある時は両目をつぶって過ごし、ついに迎えた記念日です。朝の聖日礼拝から帰って、静かに50年を振り返りました。夫との関係は学生時代から進歩がみられないけれど、健や…

辰雄なきあとの追分萩の風 はるみ

季節の終わりはいつも心が騒ぐけれど、今年は殊の外、心細い気がしてならない。軽井沢の庭は、花魁草、たいまつ草などがすっかり影をひそめ、鳥兜や水引草が取って代わり、薊の紫色、継子の尻拭いのあざやかなピンクが秋たけなわを告げている。花の色の鮮や…

追い越してみたきうなじよ踊笠 岩永はるみ

富山県の風の盆にいったのは、十五年ほど前だろうか。一年前から宿の予約をした記憶がある。酔芙蓉の花がうす桃色になった頃、胡弓の調べで、揃いの浴衣が街を踊りながら流していく。踊り手の顔は笠で見えないが、顎のあたりやうなじが若々しく匂うよう。 聞…

時計なき暮しを揺らすハンモック はるみ

少し揺れている高い枝の先を、栗鼠がまるで小径を走るように渡っていく。久しぶりにハンモックで本を読んでいて、ふと梢の先の空を見ていたら、小鳥に混じって栗鼠の姿をみつけた。高原では毎年、暦と同じ感覚で秋が来る。 今日、立秋に読んでいる本は、『し…

祖母の吹く祖父のハモニカ秋夕べ はるみ

軽井沢の大賀ホールで『夏の雲は忘れない』ーヒロシマ、ナガサキ、1945年ー。に出かけた。あの頃の人々の作文を、渡辺美佐子を初めとする7人の女優さんと地元の6人の中学生が朗読する。 当時、アメリカの戦闘機の爆音を聞かせないために、子供にハーモ…

考ふる海月は群れを離れけり はるみ

7月27日、昨年、句集『白雨』を出してから十ヶ月たって、句集上梓の会を開いていただいた。鷹崎由未子さんの『花野』と近藤牧男さんの『六月』と、三人の合同の会。 ささやかな句集がもう一度、皆さんに思い出していただけて感無量。海月の句はその折、読…

明易や大樹のこぼす鳥の声 はるみ

夏至は過ぎたが、一日は長い。先週の日曜日から一泊で千葉県の岩井海岸にいってきた。まだ、海水浴には早く人影は少なく、沖に動かない船の方が目についた。私にとって海岸はなぜが暗く寂しい。 高校生の時、我家は父の転勤で名古屋に引っ越した。私は中学か…

江戸風鈴夜は隣る世にひびきけり はるみ

この間、国立能楽堂で敦盛を見た帰り道、見知らぬ紳士が連れの青年に、「今日はひきこまれましたなー。なんか今日はよかった。」としきりに話しかけている。確かに私もひととき時代をこえて違う世界に引き込まれた。あいにく私は1人で出かけたので、そんな…

鉄橋に子等の歓声山の虹 はるみ

湖畔を散歩していると、どこからか爽やかな香りがする。気がつけば、道の片側は蜜柑畑が続いている。濃い緑の葉の中に、真っ白な花が小さいけれど目にとまる。何年ぶりだろう、蜜柑の花を見たのは‥‥。先週、浜名湖の三ヶ日にいった時のこと。そのあたりは、…

絵硝子の天使に届く蔦若葉 はるみ

ミケランジェロのシスチーナ礼拝堂の天井画について、野村祐之先生の講演があった。何度か現地で見ているし、数年前は現地で、先生のお話もうかがったけれど、今回は天井画を手に触れそうなサイズに拡大しつつの話が、深く、楽しく、2時間があっという間だ…

青葉風身の染まるまで吹かれをり はるみ

珍しく一日家にいたら、テラスの緑がまぶしい。昨日のテレビで日光に当るのが健康の元、と言っていたので早速テラスの白い椅子に座って日光浴をする。たっぷりしたテラスは1年中緑なのだが、ゴールデンウイークの間、1週間ほど留守にしていたら、シマトネ…

花の山かなたに葬りの煙り立つ 岩永はるみ

5月の軽井沢で一週間を過ごした。東京と違って桜は八分咲き、はるかな雪山との調和を言葉に出来たら、いいのだけれど。昔、高遠の桜を見た時の葬りのうす煙りを思い出した。そんなこと思ったのは、長く句会をご一緒していた方の突然の訃報に接したからかも…

風光る少女の抱くトウシュウズ

横浜の外人墓地はいつ見ても、居心地がよさそうで、私のすきな散歩道のひとつ。いつも、ここなら神様の声さえかかれば、住みたいなと思っている。もちろん日本人の私はどんなことがあっても、縁のないところだけど 墓地と言えば、よく新聞に募集のチラシがは…

囀の光あつめて散らしけり はるみ

子供の頃住んでいた京都の家は、四枚の襖に一本の桜が描かれていた。父の転勤で借りたその家は秀吉の時代のもので、庭は京都の文化財になっていたらしいが、子供に楽しい家ではなかった。 桜の絵は山桜に違いなかったけれど、なんという種類だったのだろうか…

行く春の靴よりこぼす海の砂 はるみ

小さな旅から帰ると、佐藤きょうこさんという方から葉書が届いていた。この俳句が海の砂らしい写真に印刷されている。インターネットの「俳誌サロン」というのを運営されていて、私の句集を掲載してくださったとのこと、俳句はたくさんの方に読んでいただき…

讃美歌に和す鳥声や復活祭 はるみ

むかし、フランスの田舎の行けども行けどもジャガイモ畑を走っていると、遠くに十字架が見えて、それが村に近づいたしるしだった。どんな小さな村にも教会があって、通り過ぎるとまたジャガイモ畑があって‥‥。 軽井沢の星野温泉の近くに、ちょうど、そんな小…

すかんぽや子供の覗く水溜り はるみ

1998年、この俳句を作った時、私は山荘で5歳と3歳の兄弟に笹舟の作り方を教えた。鋭い笹のふちで指を切らないか心配したが、彼らはこの遊びに夢中になってしまった。でも、なかなか水に浮かばない。あえなく浸水したり、横倒しになったりする。この年…

遠き世の楽の音洩るる貝合せ はるみ

机の抽出に忘れていた父のパイプを見つけた。手のひらに乗せてみたが、もう煙草の匂いは消えている。けれど、そのブライヤーパイプを見たとたん、パイプ煙草はもちろん、時折喫っていた葉巻の匂いまでありありとした。 机のそばに飾ってある父の写真は、商社…

伝言板に猫の手配書花ぐもり はるみ

昔々、駅には伝言板というのがあって、それを読むと短編小説のような味わいがあった。「2時間待ちました。今日はかえります。日にち間違えたのかな? M.K.」に可憐な少女を思い浮かべ、「健太、俊介先にいくぞ。例の店。R.S.K.D.」これは運動部の仲良しかな…

花明りむかしむかしで眠り落つ はるみ

私たちの10年があまり変化がないのに比べて、若い人たちの10年は、目をみはるような変化をする。家に泊まりに来ると、キャッチボールをしたり、魚釣りをしていた少年が、大学受験の報告に上京した。今までも大きくなったと思っていたが、家の中で会うの…

亀鳴いて絵皿にもどる唐子かな はるみ

雪の京都に行ってきました。気温は4度。ちょっと覚悟がいりました。 冬から春の京都は非公開の文化財が特別公開されているのですが、この度の収穫は時ならぬ春の雪でした。鳴き龍で知られる相国寺の日本最古の法堂(はっとう)に積る雪や、はらはらと松の枝…

春浅し風にもつるる絵馬の色 はるみ

昨日、さる神社を通りかかったら、比較的新しい絵馬が寒々と風に揺れていた。近くによって見ると、ほとんどが合格祈願。「第一志望に受かりますように。」「今年で浪人を終わらせて下さい。」「2人揃って受かりますように。」というのもあって、それぞれの…

猫の子の横切るを待つ三輪車 はるみ

立春が過ぎても今年は寒い、久しぶりにテニスをしていたら、コートの端を猫が通った。「おーい、猫」と友人が呼んだけれど、立ち止まりもせず行ってしまった。なにか、急ぎの用事でもあったのだろう。それとも、名前があるのに失礼な、と怒ったのだろうか。 …

丸善に読書席あり菜の花忌 はるみ

2月になると、今年の手帳も手に馴染んでくる。愛用のものは英国のLETTS社の、黒皮の手帳。初めて丸善で買ったのは、1982年なので丁度今年で30年目になる。初めは薄くてなかなかおシャレなのだが、映画、芝居、展覧会etcのチケットの半券を貼ったりし…

鳥曇神の大き手肩にあり はるみ

昨年、この季節に、居間のテラスのトネリコの植木鉢に林檎を吊るしてみた。するとたちまち、鳥たちの訪問が始まった。こちらが朝ご飯をたべていると、チチチチなきながら、目の前の林檎を食べ始める。まっかな林檎をつつくと若草色の枝がさわさわ揺れて、「…

犬駈けてたちまち新雪汚しけり はるみ

今年の日本はどうしたのだろう。この数年、暖冬だんとうと言っていたのが嘘のよう。雪だるまをつくったり、雪合戦をする雪とは別物の、魔人のような雪がテレビで連日報道されている。 毎年、冬の軽井沢では、朝の散歩で、狐の足跡らしいものを見つけたり、庭…

耳かせば ことなき話 冬林檎 はるみ

おいしい 食べ物は声を出して、「おいしい」と言うと美味しさが倍増するという。けれど、子供でもない限り、そう思ってもなかなか声に出して表明する人は少ない。まして、日本の男性で妻の作った食事を「おいしい」という人がどれほどいるだろうか。 ところ…