丸善に読書席あり菜の花忌 はるみ

 2月になると、今年の手帳も手に馴染んでくる。愛用のものは英国のLETTS社の、黒皮の手帳。初めて丸善で買ったのは、1982年なので丁度今年で30年目になる。初めは薄くてなかなかおシャレなのだが、映画、芝居、展覧会etcのチケットの半券を貼ったりしていると、たちまち、太り肉の手帳になる。
 この手帳は私の日記がわり。30年前は、長女の中間テストの日程や、次女のお誕生会の招待客の名前が書いてあったりした。買いたい本の広告の切り抜きなどもある。あのころは、毎日オーブンでケーキかクッキーを焼いた。雨の日には野球少年たちが、おやつ目当てにたくさんきていた‥‥‥。
 そう言えば、わが家にくると母親のことを、「おふくろが」と言っていた少年が、ある時、街ですれちがったとき、その母をおかあさんとやさしい声で呼んでいたことなども思い出す。
 ところで当時、丸善でしか買えなかったLETTSの手帳は、今はどこででも買えるようになった。
(菜の花忌は司馬遼太郎の忌日)