明易や大樹のこぼす鳥の声 はるみ

 夏至は過ぎたが、一日は長い。先週の日曜日から一泊で千葉県の岩井海岸にいってきた。まだ、海水浴には早く人影は少なく、沖に動かない船の方が目についた。私にとって海岸はなぜが暗く寂しい。
 高校生の時、我家は父の転勤で名古屋に引っ越した。私は中学から通っていた学校の高等部に進んでいたので、夏休みになって、名古屋の家にいっても、友人もいなければ土地に馴染みもなく、退屈で暑い毎日だった。すると、父が知多半島に家を借りてあるので、そこで過ごしたらと言ってくれた。10冊ほどの本をもって行った海は初め美しく、朝夕の風も涼しく快適だったけれど、ある朝から、その印象はがらりと変わってしまった。
 その朝いつもの散歩にでると、海岸には儀式めいたしつらいがしてあり、神官の姿があった。聞けば、昨夕小学生が溺れたという。そして、その夏なんと3度も、その海岸で幼い命が失われた。
 なにくわぬ顔で、海は毎日人々を迎え賑わっていたが、朝の散歩も神官の姿がないとほっとしたりして、呑気に貝がらを拾えなくなってしまった。海は美しいけれど怖い。その想いは今、一層強くなってしまったような気がする。