囀の光あつめて散らしけり はるみ

子供の頃住んでいた京都の家は、四枚の襖に一本の桜が描かれていた。父の転勤で借りたその家は秀吉の時代のもので、庭は京都の文化財になっていたらしいが、子供に楽しい家ではなかった。
 桜の絵は山桜に違いなかったけれど、なんという種類だったのだろうか。大樹なのに、華やかというよりは、静かでおごそかで、その前にいると何となくお行儀よくしなければいけないような気がした。あんまり心にしっくり来なかった桜の絵を、近頃よく思い出す。染井吉野の有頂天な美しさより、山桜のひかえめな美しさが懐かしい歳になったのかも知れない。
 桜は日本画の桜がいい。春ふたたび、今年は桜がことのほか美しい。