追い越してみたきうなじよ踊笠 岩永はるみ

 富山県の風の盆にいったのは、十五年ほど前だろうか。一年前から宿の予約をした記憶がある。酔芙蓉の花がうす桃色になった頃、胡弓の調べで、揃いの浴衣が街を踊りながら流していく。踊り手の顔は笠で見えないが、顎のあたりやうなじが若々しく匂うよう。
 聞くところによると、風の盆の踊り手は結婚したら、もう踊れないらしい。まだ少女や青年の物腰がいかにも色っぽい。女の私が思うのだから、恋のひとつやふたつは生まれるに違いない。明け方近くまで、胡弓の音色にひたっていて、町の外れの神社を通りかかると、踊り手の若者たちが唄をうたっている。「顔が見たさにハンカチおとす‥‥‥」なるほどとおおいに納得した、それにしても、見えないということは、なんと気にかかることか。今年も9月1、2、3日は風の盆。胡弓の音が昨日のことのように聞こえる。