行く春を水面の空に惜しみけり  はるみ

 今年も千鳥ヶ淵の桜のつぼみがうっすらと色づき始めた。毎年、ここの桜に出会うのを楽しみにしている。初めに歩いたのは、むかし昔、吟行会で5句ほど句を作るためだったと思う。
 池のボートに気をとられて見ていたら、ボートの向こうに都会の真ん中だというのに、空が映っていた。まわりには車がはしりまわっているというのに。どんな俳句を作ったかは覚えていないけれど、俳句の吟行会のお陰で始めての東京、始めての横浜、初めての市川などを訪ねる機会に恵まれたと思うと改めて、俳句との出会いに感謝している。
 千鳥ヶ淵の桜が良いところは、屋台が出たり、音楽が流れたりしないところ。早朝に行けば、ゆっくり水を呑むために枝垂れているような、圧倒的な枝振りを仰ぎ見る事も出来るし、花の盛りを過ぎた頃には、ちらちらと降りつづく花びらを見ているうちに、いろんな昔に逢うこともできる。
 本当は、山桜が好きなのだけれど、千鳥ヶ淵は特別なところ。この桜を夜となく昼となく見られる場所に住んでいる友人がいるけれど、果たして特別な桜と思っているのかしら。