松過ぎの画廊二つを回りけり  はるみ

 お正月すぎに日経新聞を読んでいてびっくりしたことがある。歌人の馬場あき子さんが文芸欄にかかれた随想に、今年一家で100個の餅を焼くという歌を見たとあった。お雑煮に1つか2つしかお餅を入れないわが家では想像も出来ない。
 その文章によると昔の日本人は一人5つ6つは食べたそうで、正確に覚えていないけれど、1人10個として10人で100個かもしれない、という文脈だった。私なら3世代同居でも100個は無理のような気がする。
 それにしても、100個のお餅が次々に焼き上がる光景は幸せな光景に違いない。香ばしい匂いとふっくり焼き上がり、ところどころ焦げたりはじけたりしている100個のお餅。実に素晴らしい。食べ物のある光景はポエムがないという人もいるけれど、しあわせとか充実とか、そこから、思考が始まるような気がする。
 子供の頃、火鉢でお餅を焼いていた記憶がある。ふくらむことを考えずに網に並べたら、両隣とくっついてしまって離そうと往生したことを思い出した。
 母に叱られないように、どうしたらいいか、思案をしている間もお餅はますます、くっつきながらふくれあがった。結局あれはどうなったのだろうか。