水切石の行方光りぬ暮の春 はるみ

 この渓谷のゆったりとした流れ、透き通る水の美しさはなんと言ったらいいのだろう。仲間と一泊のテニスキャンプの帰途、嵐山渓谷を訪れた私たちは水の豊さと両岸にそよぐ緑の木々に圧倒された。しばらくは、ぼんやりと若々しい緑に見惚れ、水の底を見入っていた。
 そして、気がつくと誰もが申し合わせたように石を投げていた。イメージでは5つや6つ水を切ってとぶ筈なのに、私の石はあえなく3つほどで沈んだ。でも、平たいすべすべの石を選ぶ楽しさ、今度こそという気持ちの弾み、昔むかしを魔法のように一瞬にして呼び戻す遊びがこころを柔らかくした。
 帰りにそっと、とびきりの石をひとつ、ポケットにいれて帰った。今、むかし川遊びをしたシャモニーの小川の石と一緒に本棚の隅に並んでいる。