梅雨寒や猫のもぐりし鉋屑 はるみ

 今年の気候は乱れに乱れ、コートを着たり半袖になったり忙しい。一体あしたは何を着たらいいのかしら? と毎晩天気予報に注意している。そんな週末、まだ夏にはほど遠い軽井沢に行ったら、なんと蟬の声が‥‥。
 庭に何か異変が、と思うほどの蟬の声にやっと気がついた。これはまさしく春蟬の声。ちょうどこの季節に居合わせたのは何年ぶりかしら、週末に田舎の家に移動していると、こんなことがよくある。今年はリラの花に会えたけれど、苧環の花時は見逃してしまった。
 そのかわり、草を刈っていない庭のそこここに植えた覚えのないマーガレットが揺れている。どこから来たのかしら? 7歳の萌子が見たら、きっと花束にして、プレゼントしてくれるに違いない。花のそばを藍色のトカゲが一瞬よぎる。庭の隅では小鳥が水浴びをしている。
 少し風が出て木の枝が揺れはじめた。浅く濃くさまざまな緑はこの季節ならではの色。膝までの草のなかに立っていると、身体中の血がさらさらと流れて、身体が深呼吸を始める。
 あと何年、この何事もない時が過ごせるのかしら、やわらかい梅雨の晴れ間の庭にいると、このかけがえのない一瞬が手のひらからこぼれ落ちてしまいそうな気がする。